循環型水産業のススメ 〜鳥の眼、魚の眼で見る持続性の要〜 鹿児島大学水産学部教授/門脇 秀策 | |||
2009年7月号28頁、「表3 溶存酸素収支とブリおよびマダイの年齢別養殖許容尾数」に示された溶存酸素収支の算出に用いた諸元は、下表の通り。
また、浅海養魚場の溶存酸素収支から養殖許容量を得るための諸式は下記のようになる。 浅海養魚場のDO収支による養殖許容量は、井上(1977)のDO収支式に基づいて、漁場別、魚種別および年令別に算定できる。 F+D+Pp=Bo+Bw+Pc+R [左辺:DO収入] F:流れによるO2供給速度(g/m3・h)、D:大気からのO2溶入速度(g/m3・h)、Pp:海藻や植物プランクトンによるO2生産速度(g/m3・h)
(1)流れによるO2供給速度(F) (Cout−Cin)・(Aa・Vaa+Ab・Vab) F:流れによるO2供給速度(g/m3・h)、Cout:漁場外の海面下3m層のO2濃度(g/m3)、Cin:養魚場内で維持すべきO2濃度(g/m3)、Aa:長方形に近似した漁場の短辺の長さ(m)、Ab:長方形に近似した漁場の長辺の長さ(m)、Vaa:Aaに直角な平均流速(m/h)、Vab:Abに直角な平均流速(m/h)
(2)大気からのO2溶入速度(D) D=K・(Cs−Cin)/C K:総括物質移動係数(m/h)、Cs:海面下3m層での飽和O2濃度(g/m3)、C:養殖生簀の平均深度。
(3)植物プランクトンによるO2生産速度(Pp) Steele(1962)のモデル式を適用し、単位Chl.a濃度あたりの単位水面積でのO2生産速度(Pp)を次式で求めることができる。 Pm(a){exp(1−Iz/Im)−exp(1−Io/Im)}・(Chl.a) Pm(a):飽和放射照度Imにおける単位Chl.a量あたりの最大O2総生産速度(g/g Chl.a・h)、Io:水面直下での放射照度(lux)、Iz:生簀平均深度での放射照度(lux)、Im:飽和放射照度(lux)、μ:鉛直消散係数(/m)、Chl.a:クロロフィルa濃度(g/m3)、C:養殖生簀の平均深度(m)。 ここで、養魚場では、Pm(a)を決める栄養塩類は制限的ではなく、水温(T)に依存すると考えられるため、井上(1979)のデータを再整理し、次式で算定する。 Pm(a)=1.35・exp(0.0480・T) また、Pm(a)とImとの関係は、井上(1979)の経験式より次式で求められる。 Im=Pm(a)/(8.67・10-4) μは、田中(私信)より、μ=1.6/Tr(透明度)を適用する。
(4)海水中の有機物によるO2消費速度(Bo) 門脇(1989)により次式で求めることができる。 Bo=0.052・(COD)・1.064(T-20) COD:化学的酸素要求量(g・m-3)、T:水温(℃)。
(5)バクテリアによるO2消費速度(Bw) 門脇・田中(1994)により次式で求めることができる。 Bw=0.8・10-9・1.089(T-20)・(Bact) Bact:全菌数(cells/L)、T:水温(℃)
(6)植物プランクトによるO2消費速度(Pc) 門脇・田中(1994)により次式で求めることができる。 Pc=2.0・1.071(T-20)・(Chl.a) Chl.a:クロロフィルa濃度(g/m3)、T:水温(℃)。
(7)魚種別、年令別の養殖魚による酸素消費速度(R) 養殖ブリのO2消費速度(Ry)は、次式(Kadowaki,1994)で求められる。 Ry=0.95・1.044(T-20)Wy0.88 養殖マダイのO2消費速度(Rb)は、次式(長崎水試,1986)で求められる。 Rr=0.60・1.059(T-20)Wr0.82
なお、アクアネット2009年7月号28頁の表3の算出例では、流速のデータは夏季の小潮期の値を、大気からのO2溶入に関与する総括物質移動係数はK=0.06を、植物プランクトンによるO2生産に係わるデータは海面下3m層の観測値を、それぞれ用いた。また、海水中の有機物、バクテリア、植物プランクトンによるO2消費に係わるデータも、それぞれ海面下3m層の観測値を用いた。ブリ類およびタイ類の健全な摂餌に必要なO2濃度には、それぞれ5.7 mg/L、4.3 mg/Lを用いた。 |